山野草の育て方

野生の生き物だ・・・・

山野草は言うまでもなく野や山で自生している植物です。
従って園芸植物(人が育てやすいように改良した物)とは少し違います。私たちが園で育てている、ほとんどの山野草は山採り物ではありません。長いあいだ人の手元で育てられて来た物ですから比較的育てやすくなっています。とは言え、野生を失った訳ではありませんからその植物が本来持っている性質は変わりません。

どんな植物も環境に適応して性質を変化させて今が在るのです。それは気が遠くなるような長い時間をかけてのことです。少し極端ですが湿地の植物について考えてみましょう。
湿地に育つ植物は長い地球の歴史の間に、時に水が少ない時も在ったでしょうから必ずしも水の中でなくとも育つ物が有ります。例えばリュウキンカやイワイチョウ等です。これらは普通の植木鉢でも育てる事が可能ですが、本来の性質はどうにもならないので一度でも厳しく水切れをさせると強いダメージとなり枯れてしまいます。
同じく湿地に育つものでも睡蓮やヒツジグサの様に絶対に乾かない所にしか育たない物については穴のない器でしか育てられないのです。
魚のムツゴロウは干潟で日光浴をしているようですがどうしても水から離れて生きていく事は出来ないのです。
  

大切な3つの要素『水分 日光 温度』

1) 水分のこと

その植物が本来どんな所に育っていたかを知る事はとても大切な事です。
水の中*非常によく湿った所*湿った所*普通*乾いた所*非常によく乾いた所、と言うように色々な場所が考えられます。例えば岩場に張り付いて育つイワシャジンと言う山草があります。岩場はチョット見乾いているように見えますが、実は意外と水分はいつも一定量が供給されているものなのです。勿論水分の少ない岩場もあって、そう言う所にはイワシャジン等ではなくイワキンバイのような比較的乾燥に強い山草が育っているのです。
見た目だけでの判断は危険です。
山草の女王と言われるコマクサに付いて考えて見ましょう。
実際に山でコマクサを見ると、ガラガラの岩屑の間で見事に咲いています。一見すごく乾いているように見えます。しかし15センチも掘ると、しっかりと湿っていることが解ります。少し大きめで深めの鉢に植え、上層部は少し大粒で、中層部は中粒で植えると都会でも結構上手く育つのです。
それぞれ違う性質を持っているのですからそれに見合った対応が必要です。
植え込み用土や鉢で調整する。水遣りの頻度で調整する。
その草の気持ちになって工面することが必要なのかもしれません。

2) 日光のこと

先に湿地の話でも触れましたし水分の所でも申しましたがその植物が育ってきた環境を考えますと日光も大きな要素です。
日向が好きな植物を日陰に長い間置くと段々元気がなくなり、多くの場合枯れてしまいます。
でも必死で生きようとして葉を大きくして、より効率的に光線を取り入れようとします。しかし絶対的に光量が少ないので同化作用が出来ずに葉の色が薄くなります。次には根が維持できなくなり寝腐れを起こし次第に弱って行くことになります。
その点、本来日向に育つ物が日陰で芽を出すことも無いではないのですが、その場合はその環境に見合った育ち方をしますので小さくひ弱な状態で生きようとします。いつかお日様が射す事を願って。
一方日陰の植物を日向に置きますと一時間もしない内に葉が変化していまいます。火傷を負ってしまい、慌てて日陰に戻しても回復しません。新しい葉を出してダメージを取り戻そうとします。
植物が萎れると人は水を沢山遣ろうとします。でも、実際は葉が火傷を負っているという事は葉の蒸散量が少なくなると言う事で、欲しがる水分量も少なくなっています。それなのに人は
逆の手当てをしてしまいがちです。時にはバケツに漬け置きまでして根腐れのきっかけを作ってしまうことすら有るのです。
物言わぬ植物たちであるという事、ゆっくり生きていると言う事などに配慮して下さい。

3) 温度のこと

今世間に出回っている山野草の種類はもの凄いですね。
日本はもとより世界中の野生植物が集って来ています。もともと日本に自生していたと思い込んでいるものも多数有ります。
日本といっても北海道から沖縄までですから亜寒帯から亜熱帯までということになります。
植物はその気候に適応して性質を持ち合わせている事は当然ですね。

栽培する上で、水と日光の次に大切な要素として温度が上げられます。
でも植物は温度の事では結構適応性が強いように思います。例えばサボテンのある物ではマイナス2・3℃位までは平気なのです。温かい所のシダ類でもマイナス5℃までは我慢できるようです。もちろん昨日まで30℃の所に有った物を今日急にマイナスの所には置けません。数拾日、あるいは数年かけて慣らせばと言うことですが。
温度は経度だけで決まる物では有りませんね。標高の差はとても重要です。100M高まるごとに0,5℃気温が下がるとされていますネ。ですから3000M級の山の上では平地に比べて15℃も低いと言う事になります。しかし実際には風や地形の違いで更に過酷な環境があるようです。
こういう所に自生していた物の中にはとても気難しいとされるものが少なくありません。先にも出ましたコマクサもその一つです。他の植物が生きていられないような環境にしか生きていない植物は気難しいとされてしまいます。実際には標高の低い所で、実生(種から育てる)栽培されていますので意外と育て易くなっている場合もあるのです。
気温について考えてきました。私たち人にとって、気温(空気の温度)の事は理解しやすいのですが植物にとって根っこの事を忘れがちです。外気温が少々高くても土中温度が低く抑えられると平気で夏を越すというお話をして見ましょう。
外気温が30℃を越す時でも鉢を冷やす事で夏越しが楽に出来ることがあります。鉢を土の上に置く。底水をする。温度の上がり難い材料で鉢の代わりにする。等など色々な方法を先人達は教えてくれています。皆さんも思いついたらやって見て下さい。
逆に寒さ対策として鉢を温める効用もあることは当然です。
やはりその植物の身になって考えるということが大切なのだと思います。

ちょっと一言・・・・・・

私共の山草園では屋久島の植物を昔から多く栽培していますが、「屋久島は南の島だから寒さに弱いのでしょう?」と言って、屋久島なになにという植物を毛嫌いされるお客様が居られます。屋久島が世界遺産になった理由をもしかしたら縄文杉が在るせいだと思っておられるのではないでしょうか。本当の大きな理由はあの小さな島に熱帯植物から亜寒帯植物まで驚きの多様な生態系が維持されているということです。この事は植物と温度の関係を考える時とても大事なヒントを示しているように思います。

最後に
自然観察をしっかりやりましょう
専門店とのお付き合いをしましょう
植え替えは2年に一度必ず行いましょう